水の出産

空気は水の出産をやめない。
天から降りそそいでは、
知らずにその行方をくらます雨。
寂しくなれば、寄りそうように
グラスにぽつりと雫があらわれる。
今が何度目の生なのか、
水に尋ねてもたゆたうばかり。

滑らかな浴槽は、宇宙船のよう。
（満たしてほしい）
そう願ったから
この惑星も
愛しい水を飼ったのだ。
青く胸を焦がしながら。

わたしの中に息づく水は
わたしの外にある水を恋しく思う。
ふたりの湖が一つになるとき
胸骨を深くつらぬく虹の光。
ふたりが育む命は、
やがて地上のあちこちに放たれる。
恋はやわらかい蜻蛉のようだ。
水の宇宙から身を引き上げて、
翅をひろげて飛び去っていく。