CHAPTER 3

STORY OF THE FUTURE

未来のIoTストーリー

203X年 36歳 女性の1日

A
M
0
6
:
0
0

朝6時、ブレスレットの振動で目が覚める。睡眠リズムを測定し目覚めのいいタイミングに起こしてくれる。だけど、あともう少しだけ眠っていたいと思う。 朝起きてまずすることは、右耳に「クリップ」をつけること。これを付けていないと家事がはかどらない。「クリップ」はイヤーカフ型のAI-temだ。骨伝導で聞こえる仕組みになっている。 わたしは視界を塞ぐ「レンズ」は好きじゃない。部屋をあちこち移動するコンシェルジュと連携して、家事をこなすことが重要になる。AIコンシェルジュを分類すると、移動型と置型の2種類存在する。移動型は昔の掃除ロボットから進化したものだ。最近では、人間の形をしたヒューマノイド型が発売された。 噂をするとクリップから声がした。Martha「奥様が起床される少し前にランドリーを回しておきましたよ」我が家の助手Marthaはいつも完璧だ。

A
M
0
7
:
0
0

洗面所に行って顔を洗う。最近のサネイ(蛇口)は優れモノだ。個人を識別して、センサーの前に差し出された手や歯ブラシなどから判断して適切な温度や水の量を調節してくれる。この時刻にはお肌にいいとされる35℃のお湯を命令しなくても出してくれる。アンチエイジングは女性にとってかかせないことだ。

A
M
0
7
:
0
0

洗面所に行って顔を洗う。最近のサネイ(蛇口)は優れモノだ。個人を識別して、センサーの前に差し出された手や歯ブラシなどから判断して適切な温度や水の量を調節してくれる。この時刻にはお肌にいいとされる35℃のお湯を命令しなくても出してくれる。アンチエイジングは女性にとってかかせないことだ。

A
M
0
7
:
3
0

そろそろ小学生の娘を起こす時間だ。Marthaに起こすよう頼んでおいたが、なかなか起きて来ない。うちは娘と二人暮らしで父親がいない。正確には匿名の男性から遺伝子をもらったという表現になる。男性の精子の数は年々減少し自然妊娠が難しくなってからは体外受精が当たり前になった。そうなると結婚という概念も変わってくる。生活費は少子化対策で国が保障してくれるし、同性同士の結婚はもちろん、子供だって作れるようになった。科学の進歩で人の細胞から卵子や精子をつくることが可能になったのだ。

A
M
0
8
:
0
0

そうこうしているうちにもう8時。眠い目をこすりながら愛娘の遅いお出ましだ。娘「チョコパンが食べたい。」チョコパンの在庫が確かあったはずだけど。冷蔵庫の中身はあまり気にしたことがない。コンビニと契約して自動補充する仕組みにしている。マンションの作りがそれに対応していて、冷蔵庫の裏側にあるゲートからワーカーが補充してくれるようになっている。メニューの中におまかせサービスというのがあって、家族の体調に合わせて一週間の献立と材料を提供してくれるから何も考えなくていい。

A
M
0
8
:
0
0

そうこうしているうちにもう8時。眠い目をこすりながら愛娘の遅いお出ましだ。娘「チョコパンが食べたい。」チョコパンの在庫が確かあったはずだけど。冷蔵庫の中身はあまり気にしたことがない。コンビニと契約して自動補充する仕組みにしている。マンションの作りがそれに対応していて、冷蔵庫の裏側にあるゲートからワーカーが補充してくれるようになっている。メニューの中におまかせサービスというのがあって、家族の体調に合わせて一週間の献立と材料を提供してくれるから何も考えなくていい。

A
M
0
8
:
3
0

そろそろ娘が学校に行く時間だ。自動運転の送迎バスが迎えに来てくれる。コンテンツが充実したとはいえ、eラーニングにも限界がある。集団でのコミュニケーションや協調する力が身に付かないからだ。なので月水金はライブの日(登校日)と決められている。

A
M
0
9
:
0
0

わたしは在宅で絵本を書く仕事をしている。子供が少なくなっているから、いつか仕事がなくなると覚悟していたけれど、そうはならなかった。大人にも需要があるからだ。というのもAIが書く絵本やイラストは、世の中にたくさん出回っているが、どれも何となく味気ない。わざと線を崩したりがんばっているようだが、幾何学的なところが消費者にバレバレなのだ。そう考えて、わたしはあえてペンタブを使わず人間味のある筆と絵具を使って描いている。

A
M
0
9
:
0
0

わたしは在宅で絵本を書く仕事をしている。子供が少なくなっているから、いつか仕事がなくなると覚悟していたけれど、そうはならなかった。大人にも需要があるからだ。というのもAIが書く絵本やイラストは、世の中にたくさん出回っているが、どれも何となく味気ない。わざと線を崩したりがんばっているようだが、幾何学的なところが消費者にバレバレなのだ。そう考えて、わたしはあえてペンタブを使わず人間味のある筆と絵具を使って描いている。

P
M
0
1
:
0
0

家事はAIコンシェルジュと分担している。彼女は、掃除洗濯は得意だが料理が苦手だ。腕が1本しかないため、お湯を沸かしたり電子レンジで温めることぐらいしかできないのだ。腕をもう一本取り付けることができるらしいが、安いものじゃないから家計的に厳しい。

P
M
0
3
:
0
0

ようやく昼食にありつける。仕事と家事の両方をいっぺんに済ませるとどうしてもこの時間になる。在宅の仕事は気分転換が難しい。昔は電車に揺られて会社に出勤するのが当たり前だったけど、今はほとんどが在宅ワーカーだ。どちらが幸せなのかと聞かれれば、やはり昔の方がよかったんじゃないかしら。

P
M
0
3
:
0
0

ようやく昼食にありつける。仕事と家事の両方をいっぺんに済ませるとどうしてもこの時間になる。在宅の仕事は気分転換が難しい。昔は電車に揺られて会社に出勤するのが当たり前だったけど、今はほとんどが在宅ワーカーだ。どちらが幸せなのかと聞かれれば、やはり昔の方がよかったんじゃないかしら。

P
M
0
4
:
0
0

まもなく娘が帰宅する時間。晩御飯の支度を始めなくてはいけない。野菜は3Dプリンターで再生開始、肉は冷蔵庫のドアに在庫を表示させて確認。あとはビーフストロガノフが出来上がるのを待つだけ。と言いたいところだけど、うちはすべてわたしが料理しないといけない。冷凍食品やインスタントは食品添加物が気になるし、少し無理してMarthaをバージョンアップするべきかいつも悩む。

P
M
0
5
:
0
0

娘は帰宅後、子供部屋で決まって人形遊びをする。わたしの子供の頃にもあったドールハウスを動物に置き換えた、シリーズもののおもちゃだ。今はかなり進歩していて、主人公となる人形以外はホログラムになっている。ストーリーがあらかじめ用意されており、ゲームのNPCのように勝手に人形が動いたり喋ったりする。進行によってストーリーやセリフがどんどん変化するのも面白い。このようなセンサーやネットワークを使ったおもちゃのことをToi(トイ)と呼んでいる。
昔あったIoTという言葉を逆さにしてToy(おもちゃ)とかけているのだろう。

P
M
0
5
:
0
0

娘は帰宅後、子供部屋で決まって人形遊びをする。わたしの子供の頃にもあったドールハウスを動物に置き換えた、シリーズもののおもちゃだ。今はかなり進歩していて、主人公となる人形以外はホログラムになっている。ストーリーがあらかじめ用意されており、ゲームのNPCのように勝手に人形が動いたり喋ったりする。進行によってストーリーやセリフがどんどん変化するのも面白い。このようなセンサーやネットワークを使ったおもちゃのことをToi(トイ)と呼んでいる。
昔あったIoTという言葉を逆さにしてToy(おもちゃ)とかけているのだろう。

P
M
0
7
:
0
0

夕食の時間は二人だけではない。スクリーンの向こう側で実家の父と母もいっしょに食事をしている。世帯人数が少なくなった現代では当たり前の光景だ。ついでに食事情の話をすると、世界的な気候変動と人口増加の影響で小麦の輸入が難しくなった。日本が自給の道を選んだのはつい5年ほど前の話だ。輸入品に比べると狭い土地で生産する小麦の量は限られておりコストはまだまだ高い。わたしの母は関西出身だが、お好み焼きやたこ焼きが高価で食べられなくなったと嘆いていた。今は原料に米を代用するようになって、高価だったパンが食べられるようになった。うなぎや海苔も食卓に並ぶことがなくなった。わたしの子供の頃と比べると、ずいぶん食生活が様変わりしたと言える。

P
M
0
8
:
0
0

明日は月に一度の出版社訪問の日、次の仕事の営業活動をするためだ。ホログラムでの打合せは頻繁に行っているが、やはり実際に会って話をしないと伝わらないことがある。 着ていく服でいつも悩む。結局、Marthaに泣きついて彼女のコーディネートを鏡に映してもらうことになる。統計学のなせる業なのか、わたしでは到底考えつかない絶妙なコーデを提案してくれる。

P
M
0
8
:
0
0

明日は月に一度の出版社訪問の日、次の仕事の営業活動をするためだ。ホログラムでの打合せは頻繁に行っているが、やはり実際に会って話をしないと伝わらないことがある。 着ていく服でいつも悩む。結局、Marthaに泣きついて彼女のコーディネートを鏡に映してもらうことになる。統計学のなせる業なのか、わたしでは到底考えつかない絶妙なコーディネートを提案してくれる。

P
M
0
9
:
0
0

もうこんな時間だ。娘を寝かさないと朝起こすのが大変だ。子供部屋のベッドに寝かせて、あとはMarthaの創作物語を聞かせるとすぐに眠ってくれるだろう。 物語といえば、わたしが描く絵本のあらすじは、思春期の頃にすでにできあがっていたものばかりだ。それらを思い出しながら小出しにしている。夢を記録できるシステムが普及してからは、録画を視聴することで大切なことを思い出すことが度々ある。まったく身に覚えのないことも多いが、大概両親に話すと実際にあったことばかりで、ただわたしが忘れているだけのようだ。
子供部屋を確認すると、すでに娘は眠りについたようだ。 幸せそうな子供の寝顔を見ていると、どんな楽しい夢を見ているのか思わず覗いてみたくなる。